【インタビュー】北島孝雄さん(アイアンマンジャパンみなみ北海道大会会長)/ 『道南ならではのおもてなし、そして笑顔で9月にお持ちしています』

情熱人

9年ぶりに日本で行われる待望のフルディスタンス・アイアンマンの舞台を創る関係者たちの活動ストーリーを紹介するインタビュー連載企画。
初回にご登場いただくのは、この人がいなければ大会実現へ向けて動き出してはいなかったであろうキーパーソン。フィニッシュ地点となる北海道木古内町の商工会長で、アイアンマンジャパンみなみ北海道大会会長の北島孝雄さん。注目レースに向けての地元ならでは取り組み、そして見どころなど大会当日への期待感高まるお話やエピソードをお伺いした。(インタビューは7月4日に実施)

Interviewer/綱島浩一(アイアンマンジャパンみなみ北海道レースディレクター)

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ーー 昨年の11月30日にアイアンマンジャパンみなみ北海道の大会実行委員会が立ち上がりました。その前に、アイアンマン招致の話を聞かれたとき、最初にどのような印象をもたれましたか?

もちろん私自身、そのときアイアンマンについての知識は全然ありませんでした。アイアンマン=鉄人なんだろうな、くらいです。
招致の話があったあと、自分でいろいろ調べたり関係者と話していく中、「アイアンマンってそういうスポーツなんだ」と徐々に理解してきたというのが正直なところ。そして、実行委員会当日は「開催に向けて全力で取り組んでいかねば」という決意で臨んでいました。
もう7カ月前のことになるのですね。

昨年の11月30日に北海道北斗市で行われた第1回大会実行委員会。日本で9年ぶりとなるフルディスタンス・アイアンマン開催の発表は大きな反響を呼んだ

今は準備が進むに連れ、より責任の重さを感じて過ごしています。
参加する選手たちにこの道南地域に来てもらい、いかにして楽しんで帰ってもらえるのか。アイアンマンという素晴らしいスポーツを受け入れる舞台を、この地域でどう作っていくのか。日々考えているところです。

そんな中、一番のキーワードになるのが『おもてなしの心』だと私は考えています。
私は木古内町の商工会長を務めさせていただいてるほか、道の駅『みそぎの郷 きこない』の理事長の役割も担っています。

北海道人気ナンバー1を幾度となく受賞している 道の駅「みそぎの郷 きこない」は大会のフィニッシュ地点からすぐそこ。写真左にいるのは木古内町公式キャラクターの『キーコ』だ

アイアンマンのフィニッシュの地点となる木古内町の人口は約3,700人なのですが、この道の駅はゴールデンウィークには日々、町の人口を上回る観光客が訪れてくれています。今年一番多かったのが5月3日の9,000人。人口の倍以上ですね。

道南地域でも空港や都市部から離れたこの町に、これだけ多くの人たちに訪れてもらえるのは本当にありがたいこと。そうやって来てくれた人に対し、(道の駅の)職員たちには「とにかく笑顔で接しましょう」と伝えています。
感謝の気持ちを決して忘れることなく迎え入れる。
それが木古内の、おもなしの形のひとつだと考えています。おかげでこの道の駅は、開業して8年半が経つのですが、北海道の旅行誌が行っている道の駅・人気ランキングで4回1位に選んでもらっているのです(そのうち3回は連続受賞)。だからトライアスリートにも、こういったマインドが受け入れらることを望んでるところです。

(アイアンマンの)誘致にここまで4年をかけてきたと聞きます。そんな中、(共催となる)北斗市と、レース後半の舞台として木古内町でぜひ大会をやらせて欲しいと依頼を受けたわけですが、逆にこちらからお願いしたいくらいだったという話を地元で話しています。

目指すはアイアンマンの聖地

このレースの説明時に今後3年は大会が開催できるだろうということと、さらには向こう10年続くことを目指すという話を受けました。本当にそれが実現できれば、道南エリアが『日本のアイアンマンの聖地』になる可能性があるでしょう。

昨今の少子高齢化問題は木古内町やその周辺の行政でも例外ではなく、それぞれの町で試行錯誤しながら対策を講じています。
そんな中、全国に向け、さらには海外へ発信できるイベントの開催によって、もっと木古内を知ってもらう起爆剤にしたい。選手たちのためはもちろん、本当に木古内のまちづくりにも役立つ企画にしていきたいなと考えていますね。
「アイアンマンの町、木古内」が根付き、継続させていければ、町の活性化の一大イベントとなりますから。

9月の木古内ではなお一層道南の自然を満喫することができるだろう。のどかな光景のランコースも選手たちの心をいやしてくれるはずだ

実は私、今年の3月に会社社長の座を降りて会長なったんですけど(北島さんは地元でも有名な「曲正 北島製パン株式会社」の社長を担っていた)、これからはもうアイアンマン1本に専念し、やっていこうという気持ちでいるんです。 
私の妻にも、もうずっと話をしています。だから実行委員会や会合などがあると、「じゃあアイアンマンに行ってらっしゃい〜」と送り出してくれるんです。
レースに出るわけではないのですけれども(笑)。

ーー 北島さんが専念されるのならば木古内町にトライアスロンがなくなるということはないわけですね(笑)。
では今後、町で予定されている具体的な「おもてなし」を教えていただけますか?

レース開催の記者発表のあと、どう選手を迎え入れるかという話を、想いを込めて町役場、商工会の会員、そして道の駅の職員などへ発信しました。その後、参加者へおもてなしするための(町の)実行委員会を立ち上げたのです。
役場から、「会長、それ何とかイベントとして考えていきましょう」という話へと発展し、町長からは強いお言葉をいただきました。「好きなだけ、予算は何とかしますから頑張っください。バックアップします」と。

そうやって皆さんにご協力いただいて、本当に今までの木古内になかった、参加者の皆さんに喜んでいただけるイベントが企画ができたと思ってます。
具体的に動き出しているのがフィニッシュ地点と、レース翌日の表彰会場で開催するフードフェスタです。その力の入れようは、関係者向けのイベント募集の要項 を見ていただければ伝わるのではないかと。

このイベント名をどうするかと考えたとき、私は木古内だけじゃなくて、渡島管内の広域に発信をすべきだと考えました。そういう意味からも、
『アイアンマンぐるっと道南グルメ祭り in KIKONAI』というタイトルとしています。ここまで話してきたおもてなしの想いも込めまして。
事業者さんは木古内はもちろん渡島半島を構成する町村、そして北斗市、函館市から来ます。全部で30店舗の予定。ただ単に出店をするだけではなく、それれぞれの地域、特色を生かした発信がなされることと思います。
このイベントは、選手に楽しんでもらうことはもちろんのこと、地域の人たちに集まってもらってアイアンマンを見てもらいたい。観客として多くの人が来てほしい、という想いも込められています。

このあと、役場や新幹線の駅にアイアンマン開催を歓迎する大きな横断幕を張り巡らし、地元としてさらに大会をアピールしていきます。
そうそう、うちの会社でも。ちょうどランコースに面しているようなので、『歓迎! アイアンマン』みたいな横断幕を作って店全体に張り巡らそうかと思っています。店のまわりの塀や壁に大々的に(笑)。
そういう目に見える想いの発信、細かいムード作りというのも大切にしたいと考えていて、そんなおもてなしの姿勢が、選手と地元との交流を深めてくれるのだと考えています。もちろんボランティアもです。

すでに木古内の町中では、アイアンマン開催を歓迎するのぼり旗やショップ設置用の小旗をあちこちで見ることができる

さらに、レース当日に考えられているのが木古内商工会女性部の皆さん。フィニッシュしたあとの選手へ温かい食べ物の提供などです。
当初、うどんが候補に上がっていたようですが、疲労で胃が弱っているだろうから、もっと固形物が消化しやすいコーンポタージュがいいだろうか。あるいは塩分がとれる味噌汁なのか。いや選手が好みで選べるようにいっそ3種類を用意すればいいんじゃないかなど、準備が進んでいるようです。

ーー お伺いしています。私が(商工会女性部に)依頼に行ったとき、最初は10時くらいまでサービスをお願いできないかとお話ししました。でも手塚さん(商工会女性部の会長)が「本当に温かいものを必要としている選手は、制限時間ギリギリの人たちじゃないんですか? 最後まで対応しますよ」とおしゃっていただいて、涙が出そうになりました。本当にありがたいことです。

アイアンマン史上初のオフィシャルどら焼きを販売!

実は私の会社でも、選手へのおもてなしを考えていましてアイアンマンのマーク(エム・ドット)が入ったどら焼きを企画中なんですよ。
「北海道バターどら焼き」という名前で販売する予定でして、1箱3個入り。ケースのデザインもアイアンマン仕様として準備を進めています。
そして、それを選手1,500人に会社のほうから提供しようかと。

ーー 選手全員にですか?

はい。私自身、全員にこの特別などら焼きを楽しんでもらいたいという想いがあるものですから。

ーー オフィシャルショップでのどら焼き販売は、間違いなくアイアンマン史上初になりますね(笑)。
では今の木古内町の魅力について。選手たちが来たらどんなところを見て欲しいでしょうか?

地域的に見て、あるいは人間的に見て、それぞれの魅力が語れると思います。
地域的には海あり、山あり。そこから得られる食材など、自然という観光資源が豊富です。
そして交通関係がきっちりと整備されている。函館から高規格道路を使えば時間はかからないですし、新幹線も本州と連絡している。

北海道新幹線の本州方面から最初の駅となるのが木古内だ

木古内という町は歴史的に見て渡島半島での交通の要所なんです。だから代々商業が盛んな町でした。宿泊所なども含めて。そういう背景もあって、人間性でいうと、いろいろな人を受け入れる気質があると思います。今で言うところの多様性でしょうか。

ーー だからなのですね。私は道南に大会運営のために移住したのですが、木古内町のみなさんと話をしているときすごく心地よいんですよ。人情が厚いというか、外から来た人のことも親身になって考えてくれる。そういった文化が根付いているのですね。
ところで木古内といえば『寒中みそぎ祭り』(※)という有名な神事があるじゃないですか。これも地元の人間性に影響を与えているんじゃないかと考えているのですが

実は私、佐女川神社(寒中みそぎのメインとなる舞台)の責任者でもあるんですけども。どうでしょうかね。
町の1年の豊漁豊作などを祈願する寒中みそぎは今年で194回目。194年続いてきた神事であと6年で200回を数えます。
また来年は佐女川神社ができて400周年を向かえることとなり今、その記念事業の準備をやってます。その実行委員長も私でして、またいろいろ寄付を集めなきゃと(笑)。

200年近くの歴史を誇る寒中みそぎ祭り。佐女川神社で極寒の中、冷水を浴びるなどの鍛錬を経た行修者たちはその後、1月の海入ってみそぎを行う

寒中みそぎ祭りでは、行修者(御神体を抱く4人の若者)が極寒の中で水を浴び、最後に海に入っていく姿がよくニュースなどで放送され、木古内町を発信している神事でもあります。
そんな中、地元の人たちは神事を遂げた行修者たちへ、「本当によく頑張ったね」といった熱いねぎらいの気持ちが贈られます。
そして行修者たちは、大変だったけど自分が清められた感覚になり、「本当にやって良かった」と感謝するのですね。

ーー そういう意味では、行修者を皆で称える文化が200年前からあるということですね。
勝手な解釈をすると、神事ではありませんが、アイアンマンというのは最大17時間の行修者たちがフィニッシュにたどり着いたときに、皆から盛大な拍手、歓声を浴びて称えられるスポーツです。
一方で試練を乗り切ってきた人を称えるという文化、人間性がこの木古内には根付いていて、その親和性はあるのじゃないかと

こじつけで考えるとそうかもしれませんが、おおむね地元は歓迎ムードだと思います。

ーー どうでしょう。選手たちも水を浴びるというのは? フィニッシュ地点の木古内町役所前に、完走者が町の五穀豊穣を願って水を被るエリアを作る。個性ある木古内版アイアンマン・フィニッシュになると思うのですが。

それ面白いですね。やりましょう!
皆さんには長く苦しかったレースののち、心と身体を水で清めて自身の無病息災と、木古内の五穀豊穣を祈願していただく。
1,500人のアイアンマンたちが町のためを思って水を被ってくれるとするならば、木古内の人たちは本当に喜ぶと思います。もちろん(選手が被るか被らないかの)選択は自由として。

フィニッシュ地点となる木古内町役場前。この場所に「アイアンマン・みそぎエリア」が設置される?

桶ならたくさんありますから。あとは水をどうやって用意するか。1,000人以上の選手が水を被ってもらえるとしたら、ちょっと準備は周到に考えなければなりませんね(笑)。
木古内ならではフィニッシュとして画になりますよね。私やりますよ。

ーー ハワイで行われるアイアンマンの世界選手権ではマオリの踊り、火を用いた神事で幕を閉じます。
ハワイが火なら木古内は水だろう、といった感じですね(笑)。

とにかくまだ見ぬアイアンマンに向けては、期待感が大きい状況です。
正直想像がつかないところがあって、町に1,000人を超えるアイアンマン・フィニッシャーがやって来るのを見たら、またこれまで(大会前まで)とは違った感情が地元で生まれてくるのだと思います。

だから、参加者の皆さんにはできるだけ多くフィニッシュ地点に帰ってきて欲しい。
木古内で皆さんをお持ちしております。
(※)インタビュー終わり

北島 孝雄(きたじま たかお)
アイアンマンジャパンみなみ北海道大会会長。地元では木古内商工会長や人気の道の駅「みそぎの郷 きこない」の理事長、ライオンズクラブ会長など数多くの要職を担当する地元財界人として活躍。一方で行政や教育委員会、商工会を中心に、木古内町の将来を考えるコミュニティを主宰。定期的に議論を行うほか、注目を集める地方行政の運営視察や、産業技術を学べる機関などへ足を運び参考にするなど、町をより良くしていくための取り組みを推進。町に住む人が豊かに暮らし続けられ、若者たちへ住みやすい環境を創っていく改革などに取り組む中心人物としても活躍し続ける。

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(※)寒中みそぎ祭り/天保2年(1831年)から続く木古内の神事。1月15日に神社守の夢枕に「御神体を潔めよ」とのお告げがあり、取り組んだあと豊漁豊作が続いたという。その後、地元の清廉な若者4人が行修者として選ばれ、白装束をまといながら冷水を浴びるなどの厳しい鍛錬を積む神事が毎年行われるようになり、祭りとして木古内を象徴する行事のひとつとなっている。

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